閾を編む

若手アーティスト支援プログラム「Voyage」 阿部明子・是恒さくら展 「閾 -いき- を編む」 宮城・塩竈市杉村惇美術館 2019.7.6(土)〜2019.8.25(日)

「和算」は日本独自に発展した数学のことです。中国から輸入された数学が、江戸時代、鎖国状態の日本で独自の進化を遂げていきました。
現代では考えられないほど、いろいろな身分の人たちが数学を楽しみ、遊んでいたと言われています。
その一旦を、鹽竈神社の博物館に展示されている「算額」で見ることができます。「算額」は「和算」の問題を奉納した絵馬です。
基本的には図形の問題で、私たちの生活では見ることがない、奇妙な形の図形とその図形に関わる問題が描かれています。
和算を楽しんだ人々は、問題が解けたことを、「算額」を作り奉納することで神に感謝していました。また、それは感謝だけ
ではなく、他の人に難しい問題を発表するという意味もあったのでしょう。日本各地から人が集まる塩伽神社の「算額」は、現存する算額のなかでも難題が多いことで有名です。
今回わたしは、亡くなった父が鹽竈神社に数学の問題を奉納していたというエピソードから、この「算額」に出会い、「和算」を知りました。
「和算」について調べていくなかで、数学を学ぶ江戸時代の人々の姿が描かれた「算額」に出会いました。
その活気のある様子は、私が受けた数学の授業とは印象が全く違います。その姿に、父が数学のことを考え、解いているときの後ろ姿が重なって見えてくるのです。

 

 

タイトル(画像上から順に)

1.展示風景1

2.裁ち合わせ (解説)

3.レウムノビレ 撮影・阿部陸郎2012-2013

4.展示風景2

5.こどもが目付けた桜  (解説)

6. 水の道 樋の作業場  (解説)

7. 大石の重さを知ること  (解説)

8. 孤と弦  (解説)

9.木の高さを写真紙で表す  (解説)

10. 斗代(とだい)をしらべる土間 (解説)

11. 三ツ割法  (解説)

12.さくら木のふみやいづれとおぼろけもはなにありしをかずへてそうる  (解説)

13.径(さしわたし)はいくらか  (解説)

14.レウムノビレ 撮影・阿部陸郎2012-2013

15. 暦学の太陽の満ち欠け  (解説)

16. 格子の先の目付け絵  (解説)

17. 三ツ割法  (解説)

18. 年貢の収納  (解説)

19. 景色の三方陣  (解説)

20. 孤と弦  (解説)

21. 油わけならぬ水わけ(飲)(動力)  (解説)

22.摂陽奇観の知恵の板  (解説)

23. 木の高さをはかるこども  (解説)

タイトル制作・説明文監修:佐藤健一(和算研究家) ※1.4.14.のみ作家によるタイトル

 

609A4669-1

609A4683-2

609A4692-3

609A4699-4

 

_DSC6000-1

_DSC6001-2

_DSC6002-3

_DSC6003-4

_DSC6005-5

_DSC6007-6

_DSC6009-7

_DSC6011-8

_DSC6013-9

_DSC6033-1_DSC6016-10

_DSC6017-11

_DSC6018-12

_DSC6022-13

_DSC6023-14

_DSC6030-18_DSC6025-15

_DSC6027-16

_DSC6029-17

 

<<解説>>

1「こどもが目付けた桜」
8「さくら木のふみやいづれとおぼろけもはなにありしをかずへてぞうる」
11「格子の先の目付け絵」
いろはにほへとち…、47 文字が桜の木の花や葉に書かれている絵を用意
します。その絵を相手に見せて、そのうち1つの文字を覚えてもらいます。
枝には花と葉があり、花にも葉にも文字が書かれています。覚えた文字が
花にあるか、葉にあるかを答えてもらい、覚えた文字を当てる遊びを「い
ろは目付字」といいます。
出典:和算書『塵劫記』より

 

2「水の道 樋の作業場」
江戸時代、和算は治水や灌漑工事に深く関わっていました。「川ふしんのこ
と」と題された治水問題には、堤の盛り土の量計算、蛇籠(石詰め籠)の容
積計算、三角柱や四角柱の角枠容積計算などが載っていて、当時の治水工事
技術の一端を知ることができます。樋(とい)とは、川の上を通る水の流れ
る道のこと。
出典:和算書『塵劫記』 「川ふしんのこと」より

 

3「大石の重さを知ること」
数学の特徴として、大きすぎるものを何か測れるものへ変換して計算した
り、代わりのものを使って計算するやり方があげられます。この和算書に
ある「大石の重さを知ること」では、臼を回す重さを弓で測る方法が書いて
あります。
その方法は
1)弓の弦を臼の引き手にかけ、弓のにぎりを持ってひっぱる。臼が回る
直前で止め、そのままで引き手と弓の間を測る。これを仮に一寸五分
とします。
2)弓の弦の中央に重石をかけ、一寸五分になるまで重りを調整します。
3)最後にお守りの重さを計ります。これで茶臼を引く時の重さがわかり
ます。
出典:算法童子門「大石の重さを知ること」より

 

4「孤と弦」

 

5「木の高さを写真紙で表す」
18「木の高さをはかるこども」
股のぞきと鼻紙によって木の高さを測る方法が塵劫記に書かれています。股から木を覗き、木の先が見えるところまで移動した
あと、木から自分の距離が木の高さになります。鼻紙では、直角二等辺三角形に鼻紙を折って、斜辺と木の先端が一致するところ
に座ると、木から自分までの距離+半間(座高)が木の高さになります。さらに木から自分までの距離を測るには、歩幅で測ると
特別な道具を使用しなくても長さが測れます。この仕組みについては、股から覗く角度が 45 度、直角二等辺三角形の角度が45
度になり、自分と木の距離と木の高さ+半間が等しくなるという、洋算でいうところの相似形で測っています。
出典:和算書『塵劫記』「たち木の長をつもる事」「木の高さを「はなかみ」にてつもる事」より

 

6「斗代をしらべる土間」
13「年貢の収納」
米の収穫や年貢に関することは、江戸時代の生活でも一番数学が使われた
部分ではないでしょうか。
「斗代」とは、一反あたりの年貢高のことをいいます。

 

9「径はいくらか」
円の直径部分を和算では “さしわたし” と呼びます。

 

10「暦学の太陽の満ち欠け」
和算家は江戸時代において暦を宣明暦から日本独自の歴法である貞享暦に
改暦した時にも活躍しました。宣明暦のズレは日食や月食で判断し、それ
によって正確な暦を作ろうと奔走したといいます。

 

12「三ツ割法」
北斎が編み出した遠近法。景色を三つに割って 描くという方法。北斎は和
算の長谷川道場に通っていたと言われています。その影響でこの描き方を
編み出したと推測されますが、北斎は通り名がたくさんあるため、長谷川
道場の名簿から名前を発見できずにいます。

 

14「景色の三方陣」
方陣の「方」は正方形のことで、「陣」は並べるということ。縦、横、斜め
の数の和が等しくなる方陣を魔方陣と言います。三方陣は縦横三つずつ並
んだ方陣のこと、三方陣には以下の図のようなひとつのパターンしか存在
しません。

 

16「油わけならぬ水わけ(飲)(動力)」
大きな容器に入っている油をいくつかの異なる大きさの容器を使って二つ
の容器に分量が等しくなるように分ける問題から。
例題:
油が一斗桶に一斗(10 升)入っています。この油を7升枡と 3 升枡を使っ
て二人で等分に分けたいのですが、どうすれば分けられますか。
答え:
(10,0,0)→(7,0,3)→(7,3,0)→(4,3,3)→(4,6,0)→(1.6.3)→(1,7,2)→(8,0,2)→
(8,2,0)→(5,2,3)→(5,5,0)
出典:『塵劫記』より

 

17「摂陽奇観の知恵の板」
大坂の狂言作者濱松歌國が著した、大阪周辺の地誌と元和元年 (1615) から
天保 4 年 (1833) までの出来事を書き記している本。その中に、図のように
割れた板を使い、色々な図形をつくるタングラムの遊びが描かれています。
出典:『摂陽奇観』

 

1920
「裁ち合わせ」
布をハサミなどで切り、それをつなげていろいろな形にする遊びです。